スタジオでのディストーション(記事翻訳)004

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Bass Clarity
ミックスでの歪みのクラシカルな活用方法の一つはベースの倍音の密度を高めることです。そうすることによって、小さいスピーカーでもベースをはっきりと聞き取れるようになります。この目的でEQを利用するよりもディストーションが良いのには2つの理由があります。元の信号には存在しない倍音を追加し、多くの場合、EQよりも広い範囲に渡って効果を発揮し、なおかつ広い周波域に渡り均等に作用します。Tech 21のSansAmpペダルはこの効果を出すにあたって非常に人気があります。

Masking & Vocal Distortion
ハードなロックトラックをミックスする際の課題の一つは激しく歪んだギターの存在がリードボーカルのプレゼンスに重要な周波域をマスクし、濁ったサウンドにしてしまうことです。この際、ボーカルトラックに歪みを加えることによって解決することができます。エンジニアによっては激しくコンプレッションを施したり、センドを介してディストーションをかけるなどし、ヴォーカルにトラックに輪郭をもたらします。

Frequency Splitting
ドラムループにディストーションを使用すると、特徴的でアグレッシブなサウンドを作成することができますが、ベースドラムの低域を損なう恐れがあります。このため、ドラムループの周波数帯域を分割し、ローエンドへの影響を最小限に留めるといいでしょう。Craig AndertonのCubase Quadrafuzz、Ohm ForceのOhmicide、またはMDAのフリーウェアBandistoはバンドを分割する機能が予め備わっています。また、ドラムトラックを複製し、片方にのみハイパス、ローパスフィルターを使用して特定の帯域を分離してからディストーションをかけることによって、こういった機能が備わっていなくとも効果を再現することができます。

Delay & Distortion
ディレイエフェクトによって作られる音と、ドライシグナルをはっきりと区別させるのは洗練されたミックスにとって重要で、歪みはこの目的に有効に作用します。古いアナログディレイの魅力は、生成されるディレイにかかった微妙な(またはそれほど微妙ではない)歪み特性に部分的に起因しています。

Order, Order!
他のエフェクトと同様に、チェーンのどこにディストーションを導入するかは悩むでしょう。たとえば、ギターペダルのセットアップでは、ワウペダルの前と後とでは歪みが大きく異なる結果になります。同様に、ディレイペダルは、プリアンプを介した歪みの後、エフェクトループに配置する方が適切です。プリアンプの前のチェーンよりも さまざまな構成を試してみると、エフェクトが互いにどのように相互作用するかをよりよく理解できます。

Digital Distortion
デジタルの歪みについても考察しましょう。もちろん、デジタルシステムを使用してアナログ歪みをモデル化できます。一方で、ビット深度、サンプルレートを減らすことでも歪みを引き出すことができます。ディザを使用することなくビット深度を減らすとデジタルオーディオに量子化歪み(quantisation distortions)が生じます。また、サンプルレートを下げると、可聴範囲内の周波数でエイリアス歪み(aliasing distortion)が発生する可能性があります。エイリアス歪みには、原音の基本周波数より低い周波帯で周波数成分が付加されるという興味深い特性があります。これは原音の周波数とサンプルレートの数学的違いに原因があります。これは、原音の基本周波数に基づいて高次倍音を発生させるアナログでの歪みとは大きく異なります。もちろん、デジタルクリッピングの耳障りな音もあります。これはスネアドラムにエッジを加えることはできますが、多く場合は望ましいことではありません。

一般的に、デジタルの歪みは、アナログの歪みほど音楽的に心地よい音ではありません。しかし、クリエイティブに活用できる可能性もあります。たとえば、初期のビデオゲームで聞こえたローファイサウンドを再現する、または初期のサンプラーなどの「ビンテージ」デジタル機器のサウンドを再現するといった用途が考えられます。