重い木製のドアを開けてウィーンの「リビングルーム」に入ると、まるで1910年のまま時計が止まっているかのように感じられる。ウェイターはよそよそしく、複雑なメニューに経験豊富なバリスタでさえも困惑している。客の手にはスマートフォンではなく新聞。どれだけ外がせわしなくとも、コーヒーハウスはそれ自体が一つの世界であり、時間にも流行にも影響されることはない。
ロココとボヘミアン、流行と観光、品格と革命ー。今日のウィーンのカフェはこの街のあり方と同じくらい多様になった。しかし、外見こそ違えど、カフェハウスが社会の延長であるという信念を皆が共有している。
一杯のコーヒーを飲みながら、急かされることなくゆったりとした時間を過ごし、本を読む。夢を見る。ゲームで遊ぶ。そこは笑いと愛であふれ、世界をより良い方へ導いてゆく。暖かく、懐かしい輝きの中で”Gemütlichkeit”オーストリアの人々ののいう心地よさを感じる。 コーヒーハウスに参加するーそれはウィーンの魂を知るための、これ以上ないチケットだ。
Magic Beans
この世の多くのおとぎ話のように、ウィーンのコーヒーハウス文化は魔法の豆から始まる。1683年、オスマン帝国の侵略者はウィーンの戦いでポーランドとハプスブルクの同盟国から急いで撤退した際、彼らは街の門に豆の袋を置き去りにした。
最初はこの謎の豆はラクダの餌や肥料としてゴミ同然の扱いを受けていた。しかし、かつて捕虜となりトルコで過ごした軍人将校、Jerzy Franciszek Kulczyckiはその価値を理解していた。 彼はコーヒー豆を焙煎し、砂糖と牛乳を加えた。 そして、ハプスブルクの人々はそれに夢中になった。
その小さな豆が、やがて大きな文化となる。18世紀から19世紀にかけて、世界各地にコーヒーハウスが誕生し、ハプスブルク皇帝や上流社会にコーヒーやケーキを提供してきた。モーツァルトとベートーヴェンは、1788年にウィーンで最も古いカフェFrauenhuberで公演を行い、世紀末には、思想家、詩人、哲学者、音楽家、芸術家が街で最も壮大なKaffehäuserに流れ込んだ。
Strictly Old School
地元の人々には、それぞれのコーヒーハウスにお気に入りの場所がある。あなたはそれを見て、愛らしいと思うかもしれないし、古臭いと感じるかもしれない。ポスターがベタベタと貼られ、ニコチンのせいで汚れてしまった壁。何世紀にも渡って落ち着きのない客の尻を受け止めていたせいですり減ったベルベットのアームチェア。薄暗い照明は危険な男女の関係を照らすにふさわしい。
CaféSperlは、6区のMuseumsQuartierからすぐ、バーが並ぶGumpendorfer Strasseにある粋なオールドスクーラーだ。高い天井の店内にはビリヤード台と会話やカードゲームのための個室があり。FranzLehárとSigmund Freudの二人はこの店の常連だった。
Innere StadtにあるCaféLeopold Hawelkaは、古く、趣きのある伝統的なカフェ。壁には古い写真が並び、まるでこの店の時計は1930年代で止まってしまいるかのようだ。この店の殿堂にはWarholやHundertwasserのような芸術家が名を連ねる。寒い冬の日はここのコーヒーとBuchteln(ボヘミアの伝統的な菓子)がおすすめ。
さらに歴史をさかのぼりたければ、LeopoldstadtのTaborstrasseUバーン近郊のSperlhofがいいかもしれない。店内のポスターと木張りのインテリアは、1920年代の雰囲気そのものだ。
A Slice of Living History
ウィーンには、宮殿のようにぜいたくなコーヒーハウスが多く存在する。CaféCentralの大理石の床は丁寧に磨かれ、まばゆい輝きを放つ。午後5時になるとピアニストが演奏を始める。
Sigmund Freudと詩人Peter Altenbergもかつてこの高く跳ね上がるアーチ型の天井の下でコーヒーを飲んだ。また、ここに来たTrotskyは次の動きについて考えを巡らせた。チェスの駒とロシア革命のー。 確かにここはツーリストの定番かもしれない。だが、Altenbergtorteのチョコレートトリュフのような素晴らしいケーキの誘惑に打ち勝つことは難しいだろう。
同様に派手なのがシャンデリアが輝くCaféSacher。 1832年創業のこの店で注文するべきはSacher Torteだ。チョコレートのアイシングと酸味のあるアプリコットジャムの層が特徴で、Wenzel von Metternich王子のために作られた。しかし王子ではなく職人の名前がつけられた。
通りを南に横切ると午後3時のおやつ寺院、Demelのサロンがある。かつては帝国の料理がこのロココ調の建物で作られていた。まるで蜂のような、19インチのウエストで知られるシシ皇后さえ、ここのお菓子を愛してやまなかった。クリーム入り、チョコレートあるいはフルーツが乗った多くのお菓子の中でもトルテが際立っている。Anna Demel Torte、それはチョコレートヌガーのカロリー爆弾だ。
心地よい秋のStadtparkや朝のMAKでの展覧会を散策した後、Ringstrasse大通りでPrückelに向かう。ここは、個室と高い天井の店内に1950年代の息吹を感じることができる。午後に来るとパラパラとはがれるアップルシュトルーデルを食べることができる。または、夜に来て静かにたたずむのも良いだろう。毎週月曜日、水曜日、金曜日の午後7時から午後10時までの間ならピアニストの演奏を聞くことができる。
New Wave Cafes
ウィーンは常に過去と現在の間にかかる細いロープの上を渡ってきた街だ。Kaffehausの新しい時代を新しい時代を切り開くニューウェーブのカフェを紹介しよう。
強烈なイタリア式のエスプレッソショットを出すBurggasseはそのような店1つ。デザインにフォーカスを当てた7区、Neubauに店をかまえる。Formicaのテーブルとヴィンテージバーで、1950年代にタイムワープしたかのような雰囲気の店内では、グルメな朝食、オーガニック料理、自家製のケーキを食べることができる。
Alsergrundの大学地区にあるCaffèCoutureは、バリスタGeorg Brannyの発案によるもの。La Marzocco Strada EPは彼の愛機。このエスプレッソマシンを使用して、ミニマリストの作品に囲まれた芸術的な雰囲気の中でクリエイティブなコーヒーを作り上げる。
カフェというよりは、ケーキ屋というべきかもしれないが、Fett + Zuckerは、午前のKarmelitermarkt周辺を散歩をした後にふさわしいスウィーツを提供している。壁に貼られたコミックアートとヴィンテージ家具の雑然とした雰囲気がゆったりとした雰囲気を演出している。
古典的なコーヒーハウスの型から大きく離れているのが、Innere StadtにあるCafe Neko。ウィーンで最初の日本式の猫のカフェだ。コーヒーを飲みながら猫をなでることができる。
Late Nights, Early Mornings
頭がぼやけるような時間にどこでコーヒーを買えるだろうか。ウィーンのコーヒーハウスは夜まなるとバーに姿を変える。Innere Stadtには、暗い、ボヘミアンのKaffee Alt Wien(Bäckerstrasse9)がある。学生たちは濃い霧の中を歩き、この店に通う。ここは午前2時まで開いており、素晴らしいグーラッシュを出す。Naschmarktの反対側にあるCafe Drechslerは、もう1つの優れた選択肢だ。ここでは夜になるとDJがいることもしばしば。滑らかでシンプルなインテリアは、Sir Terence Conran印だ。
LonelyPlanetより